書籍紹介ページ

はじめに　

「やることが多すぎて仕事が終わらない」
「もっと教材研究や生徒と向き合う時間が欲しい」
「土日も仕事でわが子と触れ合う暇もない」
「さまざまな時短術を試したが、大した効果は得られなかった」
「正直、行政や学校の働き方改革に期待が持てない」

そんな悩みや不満を抱えていませんか？
もし一つでも当てはまるものがあれば、その問題を解決する方法が見つかるはずです。

本書は「月30時間の自由を生み出す仕事術」を解説しています。ここでの仕事術は、社会人の基本スキルでもあるため、生産性を向上させたい人であれば、誰でも役立ててもらえる内容となっています。

あなたは、定時退勤ができるのは一部の優秀な人だけだと思っていませんか？
決してそんなことはありません。その証拠に、優秀とは無縁の私がこの仕事術によって公私ともに充実した生活を送り、こうして執筆の機会まで頂くことができました。

教員の世界には、出版やＳＮＳなどで様々な情報を発信し、定時退勤を実現している優秀な先生がいます。しかし、私自身は優秀とは無縁の平凡な教員です。
出席が足りず、卒業すら危ぶまれた高校・大学時代を思えば、平凡どころか学力面ではハンデを背負っていると言った方がいいかも知れません。

そんな私でも、次のような経験を得ることができたのは、サラリーマン時代に「仕事術」と出会い、時間を生み出すための研究を続けてきたからです。

●フルタイム勤務しながら通信制大学にて教員免許を取得
●教員として月70時間以上の残業時間の削減
●年間のインプットは読書70冊以上、セミナー受講50回以上
●県教委指定の授業の専門家としてメディア取材や県外からの視察
●県教育長賞の受賞

私は、社会人のキャリアを旅行会社でスタートさせました。一部上場と言えば聞こえはいいですが、その働き方は教員と同じかそれ以上にブラックで、会社からはムダを省いた効率的・効果的な働き方を求められました。
上司や先輩からは「本来業務（利益につながる業務）」に注力する働き方を徹底的に叩き込まれ、それが私の「仕事術」の基盤となりました。
教員となった今、合理性の観点から見れば、学校の文化にはまだまだムダがあるように思います。しかし一方で、子どもの成長に携わる以上、「丁寧さ」や「きめ細やかさ」など、効率では測ることのできない学校独自の文化も尊重しなければなりません。
私は、企業と学校、両者の「文化」を知る者として、本書では「効率」と「丁寧さ」を両立する働き方をお伝えしたいと思います。

生産性向上で得られる未来
本書では、長時間労働に苦しむ教員に向けて「月30時間（≒１日１・５時間×22日）の自由を生み出す仕事術」を解説しています。１日１・５時間の時短といえば、18時半退勤の人は定時退勤ができ、定時退勤の人は月４回の年休が取れる計算です。
月30時間の自由を手にしたら、あなたはその時間で何をしたいですか？
それだけの時間があれば教員としての力量を高めるだけでなく、読者やスポーツ、家族との時間など、人生を豊かにするために時間を使うことができます。
しかし、現実には教員の仕事は過酷です。自由を得るどころか、仕事の持ち帰りも多く、愛知教育大学が実施した調査では、「仕事に追われて生活にゆとりがない」と答えている教員が小学校・中学校ともに75％を超えています。
こうした心身ともに追い詰められた状況では、よい授業をするどころか、悩みを抱える生徒の表情に気づくことすら困難でしょう。

なぜ働き方改革は進まないのか
マスコミ報道や「教師バトン」によって、現場の窮状が社会的に認知されつつあるのに、なぜ教員の働き方は改善しないのでしょうか。
教員の長時間労働を是正するためには、次のようなそれぞれの立場からの取組みが欠かせません。

１　行政によるリソース（人・モノ・カネ）の拡充
２　学校内の業務改善および業務削減
３　教員の生産性向上（スキルアップや効率化）

しかし、残念ながら１と２を期待することは難しいのが実情です。
元文科省次官の前川氏が「文科省は財務省に１００戦１００敗」と言うほど、財務省への予算要求はことごとく拒まれ、マネジメントに光が当たらなかった学校には、業務改善のノウハウが不足しています。
さらに、働き方改革の主導的立場の管理職（副校長・教頭）が、もっとも多忙で改革の余裕がない、業務削減に対する教員や保護者の理解が得られない、といった問題も抱えています。
そのため、結局は教員個人がスキルアップしたり、業務を効率化したりして自己防衛に努める以外に長時間労働から抜け出す術がないのです。

「時短術」が教員の時短につながらない理由
これまで各界の第一線で活躍しているビジネスパーソンや、さまざまな工夫で効率化を実践している教員の「時短術」が紹介されてきました。
私の身近にもそうした本を参考に働き方を見直した教員が何人もいます。しかし、学校ではいまだに長時間労働に改善の兆しが見えず、生産性の低い働き方も根強いままです。
ビジネスメソッドの時短術が教員の長時間労働を改善できなかった最大の理由は、学校と企業の仕組み・文化の違いから、その実践に一定のハードルが存在したことです。
一方、教員対象の時短術は、ナレッジ（知識・情報）の共有であることが多く、「実践事例を使える人が使う」性質のものでした。
しかし、多忙な人が時短のために学び続ける構造は持続的ではなく、得られた情報が自身の働き方に合わなければ、成果（時短）よりも学ぶコストの方が大きくなってしまいます。（ナレッジの共有はもちろん重要なことだと思います）
また、時短術を使える場面が「要録の作成」「テストの採点」のように、限定的で汎用性が低かったことも成果が頭打ちであった理由の一つでしょう。

生産性向上の最適解
したがって、教員の長時間労働を改善するためには、次の発想が必要になります。
●　ビジネスメソッドの時短術を教員用に最適化し（メソッドの融合）
●　汎用性の高いスキルを習得することで
●　レバレッジによって多くの時間を生み出す
学校という枠組みの中で、新しいアイディアを生み出すのは容易ではありません。しかし、ビジネスメソッドにはその道の専門家によって打ち立てられた時短の知恵があります。
また、スキルやノウハウの習得は、ナレッジ（知識・情報）の共有に比べて時間がかかりますが、一度身に付けたスキルは「複利」で時間を生み続けます。
「分かる」を「できる」に変えることは、生涯に渡ってあなたの身を助けるのです。

本書は、レバレッジの高い６つのスキル（スケジュール管理・todoリスト・整理術・集中法・メール術・ＩＣＴ活用）を精選し、再現性の高いものだけを体系的にまとめました。
私が実際に使用している様式やツールを示し、その活用方法もステップ・バイ・ステップで解説したので、ダウンロード後すぐに実践して頂くことが可能です。
その意味で、本書は「知って得する」いわゆる「時短術」の本ではありません。実践して身に付ける「仕事術」の教科書なのです。

担任に相談できない生徒
今でこそ「ビジネスメソッドと学校文化の融合」が、働き方の最適解であると考えていますが、その結論に至るまでは失敗の連続でした。
教員になってからというもの、慣れない授業や部活、煩雑な事務作業に追われ、長時間労働が常態化し、職員室では「21時には帰ろう」が合言葉でした。会議や打合せがあまりに多く、紙文化の連絡やボトムアップの意思決定にも非効率さを感じていました。
毎月の残業時間が１００時間を優に超え、心身ともに追い詰められる中、生徒に言われた言葉が今でも忘れられません。

「先生に相談したかったけど、忙しそうだったから話しかけられませんでした」

　子どもが教員に遠慮して相談できないとしたら何のための教員でしょうか。私は自らの働き方を反省しました。「もっと効率よく働いて、生徒とかかわる時間を作ろう」。そう思った時に頭をよぎったのがサラリーマン時代の仕事術でした。
転職を経験し、異なる文化の中で顧みることがなかった仕事術でしたが、「本来業務に注力するための効率化」という発想は民間でも教員でも同じです。
そうであれば、事務作業や雑務を効率化することで、教材研究や生徒対応などの時間を確保できるのではないか。私は、タイムマネジメントや生産性向上のビジネス書を読みあさり、いくつものセミナーを受講しては、学校で実践しました。
　しかし、何をやっても上手くいきません。かえって仕事や人間関係をこじらせることもしばしばで、「だから中途（採用）は使えねえんだよ」と吐き捨てられたこともあります。
失敗の原因は、ビジネスメソッドをそのまま学校に当てはめようとしたことでした。
いかにＩＣＴが便利でも、紙文化の学校ですべてをデジタル化することはできませんし、丁寧さを旨とする組織の中で、声高に「効率化」を叫べば、周囲と軋轢が生じます。
学校には学校の仕事の進め方があります。当時の私は、生徒との時間を作ろうとするあまり、そうした当たり前のことすら分かっていなかったのです。
こうしてトライ・アンド・エラーを繰り返すうちに、教員の文化を理解できるようになった私は、仕事術に関して一つの結論にたどり着くことができました。
それが「ビジネスメソッドと学校文化の融合」だったのです。

持続可能な教育のために
本書は、生産性の高いビジネスパーソンが実践している仕事術を、学校で再現可能な形に再構成し、90名を超える協力者から頂いた意見を基にメソッドを磨いてきました。
私は、所属校やＳＮＳを通じて知り合った若手の先生向けにセミナーや勉強会をさせて頂く機会があります。そこでは、
「教材研究の時間を作れるようになりました！」
「フィードバックのおかげで効率的に働くコツが分かるようになりました」
「初任者研修でこういう話が聞きたかったです」
という声を頂くようになりました。
そうした体験を得て、教員の「自己犠牲を前提とした働き方」を「持続可能な働き方」に転換する力になりたいという思いが芽生え、本書の執筆に至りました。
本書を読み終える頃には、あなたもきっと生産性の高い思考と行動を身に付け、「月30時間の自由を生み出す働き方」を実践しているはずです。
さあ、これまでの働き方に別れを告げ、新しい一歩を踏み出しましょう。その一歩が持続可能な教育につながるはずです。
本書が先生方の業務改善の一助になることを心より願っております。