【忙しすぎる先生必見!】教員に働き方改革が必要な3つの理由①「健康リスク編」
働き方改革アドバイザーの小太郎です。
世間では、労働者不足を背景として、長時間労働の是正や生産性の向上などの働き方改革が進んでいます。
しかし、「教員の働き方改革」については、働き方改革が教育活動の削減(=生徒の不利益)につながるとの懸念から、教員や保護者の反対の声もあり、なかなか理解が得られていないのが現状です。
そこで今回は、「教員になぜ働き方改革が必要なのか」その理由を全3回に分けて解説したいと思います。
小太郎
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【教員の忙しさが生徒の不利益に?!】教員に働き方改革が必要な3つの理由③「生徒への悪影響編」
教員に働き方改革が必要な3つの理由
学校現場のブラックな労働環境は、近年の報道によって世間に知られるようになってきました。
しかし、不思議なことに、当事者である教員が自身の働き方改革に反対している側面があります。
その理由は、
- 「教育は時間や生産性で割り切れるものではない」
- 「子どものための仕事は削れない」
というものです。
また、教員の多忙化の要因である部活や行事などをスリム化(=活動内容の縮小)しようとすると、
「子どもたちの活動の機会を奪わないでください」と、保護者からの反対の声も聞かれます。
社会が働き方改革の必要性を共通の認識とし、企業もその方策に知恵を絞る中、
学校では、未だに「働き方改革の是非」を議論しているのです。
僕も教員の端くれとして、教員・保護者が心配する気持ちは痛いほどよくわかります。
しかし、それでも教員の働き方改革は急務だと考えます。
主な理由は3点です。
- 健康リスクの増大
- 教員採用試験の倍率低下による弊害
- 子どもたちへの悪影響
以下、詳しく説明したいと思います。
教員に働き方改革が必要な理由①:健康リスクの増大
過労死レベルが異常
教員のブラックな働き方の中で最も危惧されるのが過労死です。
厚生労働省が示した基準によると、「過労死ライン」は、
月80時間以上の残業(=週60時間以上の勤務)
※月20日出勤・8時間労働の場合:1日4時間以上の残業(=12時間以上の勤務)
とされています。
過労死ラインを超える労働は、脳や心臓疾患のリスクを通常の2~3倍に高めるとの研究もあり、
死亡や自殺があった場合の因果関係の判定に用いられる基準でもあります。
教員の長時間労働
では、教員の労働時間とはどの程度なのでしょうか。
少し古いデータですが、文科省が行った「教員勤務実態調査(平成28年度)」によると、
教員の1週間あたりの勤務時間は以下のような結果となりました。
この調査では、
- 小学校 33.4%
- 中学校 57.7%
の教員が過労死ラインを超えているという驚くべき実態が明らかになりました。
しかも、このデータは「自宅残業」を含んでいません。実際よりも労働時間が短く見積もられた「名目値」なのです。
では、「自宅残業」の時間も確認してみましょう。同じく「教員勤務実態調査(平成28年度)」によると、「自宅残業」の平均時間は以下のようになっています。
これを基に、小・中学校の1週間の「自宅残業」の時間を算出すると、
小学校 | 中学校 | |
平日 | 0:29×5日=2時間25分 | 0:20×5日=1時間40分 |
土日 | 1:08×2日=2時間16分 | 1:10×2日=2時間20分 |
合計 (1週間の自宅残業時間) | 4時間41分 | 4時間 |
となります。
ただ、「自宅残業」の時間には別のデータもあります。
ベネッセコーポレーションが同年に実施した「学習指導基本調査(平成28年度)」では、
平日の「自宅残業」の平均時間は、
- 小学校 57.7分
- 中学校 46.3分
と、文科省の調査のおおよそ2倍となっています。
これを1週間あたりに換算すると、
- 小学校 7時間01分
- 中学校 6時間10分
になります。
文科省とベネッセコーポレーションの調査には、1週間あたりの「自宅残業」に2時間以上の開きがあります。
そこで、両者の間をとって、1週間あたりの「自宅残業」の平均時間を5時間として計算すると、
- 小学校 57.8%
- 中学校 74.1%
の教員が過労死ラインを超えて労働していることになります。
これがいかに異常な数値であるか、他業種と比較してみましょう。
グラフから、教員の長時間労働が突出していることが分かります。
実は、小中学校の教諭の労働時間の平均は、過労死ラインを超えており、
「教員の働き方=過労死ライン」となっているのです。
教員の残業代
しかも、公立学校の教員には、残業代が出ません。
給与の4%を「教職調整額」として給与に上乗せする代わりに、時間外手当(残業代)は支払わないことが法律で定められているからです。
ちなみに、給料の4%は、1週間あたり2時間(=1か月あたり8時間)の時間外労働に相当します。
実際には、10倍もの時間外労働をしているのに、たった8時間の残業代を支払うだけで、
教員は「定額働かせ放題」で労働させることができるのです。
本来、残業代は経営を圧迫するものです。
だからこそ、民間企業では労務管理が徹底されていて、「労働時間の管理」や「業務改善」などの時間外労働を減らすための努力がなされているのです。
しかし、公立学校では、教員にいくら残業をさせても残業代は発生しません。
給料を支払う側に「コスト」の痛みがなければ、長時間労働を是正する理由はありません。
むしろ、たくさん働かせた方が得です。
これでは、長時間労働を抑制するどころか、長時間労働を「助長」するインセンティブが働いてしまいます。このしくみが、教員に長時間労働を強いてきた原因の1つなのです。
このように、
- 教員が「生徒のために」と歯止めをかけずに働いて
- 保護者や世間も献身的な教師像を理想とし
- 長時間労働にブレーキをかける存在がいなかった
その結果が、中学校教諭の74%が過労死レベルという異常な働き方を生み出してしまったのです。
教員の過労死の実態
では、実際に教員の過労死はどの程度起こっているのでしょうか。
2018年4月21日付の毎日新聞によると、教員の過労死は、2016年までの10年間で実に63人にのぼっています。
ただし、この人数も氷山の一角です。
なぜなら、2016年当時タイムカードによって勤務時間を管理している学校はわずか20%と少数であるため、過労死を疑うような事案が発生したとしても、勤務記録がないことにより過労死の証明が難しく、泣き寝入りするケースも相当数存在していると考えられるからです。
例えば、神奈川新聞の記事では、横浜市の中学校で起こった教員の過労死をめぐる一連の出来事をこのように紹介しています。
朝7時前から学校に行き夜10時近くまで残業をし、家でも持ち帰り仕事でパソコンに向かい、そのまま突っ伏す日も珍しくなかった。生徒が校外で問題を起こせば駆け付け、保護者にも対応し、週末は部活指導で家を空けた。最終的に、3年生の修学旅行の引率で2泊3日をほぼ不眠のまま働いたことが、引き金となった。
妻の祥子さんは、夫の同僚らに背中を押される形で、公務災害の申請を行うことに決めた。過労死認定の鍵は、時間外労働の長さの証明に尽きる。タイムカードなどによる出退勤管理が徹底されていない学校現場ではこれが非常に難しい。「夫が何時から何時まで働いていたのか、1日1日をさかのぼっていく。まるで死に至るまでの日々をなぞっていく作業でした」
(中略)
そうまでしてこぎ着けた申請は、2年も待たされた揚げ句「公務外(不認定)」という結果に終わった。「自分で勝手に働き過ぎて、勝手に死んだんでしょうと。まるで夫の、2度目の死亡宣告を受けたようでした」。
出典:【先生の明日】(上)熱血教師は40歳で死んだ カナコロ(神奈川新聞)
構造的な長時間労働のしくみの中で、休みたくても休めず、「生徒のために」と、体にムチ打って働いた末に亡くなった先生の過労死認定をめぐる裁判です。
労務管理もなく、働かせるだけ働かせておいて、「自分で勝手に働き過ぎて、勝手に死んだんでしょ」と、遺族に思わせてしまう教員の働き方。これが教育に尽くして命を落とした人に対する仕打ちでしょうか。(※本件は、審査請求の結果、最終的には過労死の認定がなされています)
ここから見えてくるのは、
- 時間外労働は青天井
- にもかかわらず、残業代は出ない
- 過労死しても認められない
という理不尽な教員の働き方の実態です。
教員の働き方と過労死をめぐる問題を見ると、高々1万円ほどのタイムカードすら学校に導入しないのは、果たして本当に予算が足りないからなのか?文科省や自治体にとって都合の悪い実態が明るみに出るから、勤務時間すら把握しないのでは?と思わず邪推してしまいます。
小太郎
2015年の電通社員による過労自殺では、事件の舞台が有名企業であったこともあり、世間の関心事として、その後の働き方改革の大きな論点となりましたが、教員による同種の事件があっても、なぜか大きなニュースにはなりません。
働き方改革関連法案による「時間外労働の上限規制」も、民間企業には違反の罰則がありますが、教員にはそれもありません。
まるで、世間から「教員は生徒のために犠牲になってくれ」と言われているようです。
しかし、ワークライフバランスの観点からも、人権尊重の精神からも、
「仕事のために過労死」したり、「仕事のせいで過労死」することは絶対にあってはなりません。
これが、教員に働き方改革が必要な一番の理由です。
精神疾患による休職が年間5,000人
教員の精神疾患による休職も深刻です。
文部科学省の「精神疾患による病気休職者の推移」によると、
平成30年度の教員の精神疾患による休職者数は5,212人(毎年5,000人前後で推移)となっています。
毎年5,000人という数値を見ると、もはや構造上の問題を疑わざるを得ないのですが、
教員の精神疾患のリスクの高さを裏付けるようなデータがあります。
愛知教育大学が実施した「教員の仕事と意識に関する調査(2015)」では、
「仕事に追われて生活にゆとりがない」と答えている教員が、小中学校で75%を超えているのです。
自分も経験がありますが、おそらく1日中仕事に追われ、家に帰っても授業や生徒のことが気になって「気の休まる暇がない」という状況ではないでしょうか。
そうした先生が4人中3人もいるのです。
では、教員はなぜそこまで追い込まれてしまてっているのでしょうか。
一般に、精神疾患の原因として挙げられるのは、
- 長時間労働
- 過度な要求をしてくる保護者への対応
- 部活動の指導
- 学級崩壊など新たな問題
- 発達障害など個別のケアが必要な子どもの増加
などですが、これらを並列に論じるだけでは問題の本質は見えてきません。
なぜなら、これらの困難な状況は、単独ではなく同時進行で起こるものだからです。
また、仕事の負荷とは本来、「量×質」によって評価されるべきものですが、教員は、長時間労働や部活など「量」的な負荷だけでなく、仕事の「質」においても特殊な心理的負荷があります。
例えば、
- 生徒の成長や安全に対する責任
- 生徒や保護者との密接なかかわり
- 社会からの眼差し
などは、他業種にはない独特の緊張感ではないでしょうか。
加えて、教師は「仕事」と「プライベート」の線引きが難しい職業です。
生徒が問題を起こせば、休みであっても飛んで駆けつけますし、クラスのことは四六時中気になります。寝ている時も生徒が夢に出てきたり、それこそ24時間、365日オンライン状態です。
そうした密な付き合いを最低でも1年、長ければ3年(小学校は6年)に渡って行う心理的な負荷は、僕は民間企業では経験したことがありません。
小太郎
このように、休みもままならぬ長時間労働という土台の上に、逃げ場のない心理的プレッシャーを抱える過酷な労働の中で、心身の故障を訴える教員が増えているのです。
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まとめ
今回は「教員に働き方改革が必要な理由①」として、健康リスクの観点からその必要性を述べました。
教員は「生徒のため」には自己犠牲をいとわない生き物です。自分の子どものように、できる限りの愛情をそそぐ教員の姿は学校では当たり前の光景です。
しかし、その働き方が過労死ラインを超える労働を固定化させ、精神疾患による多数の休職者を生んでいるとしたら、それは教員だけでなく生徒にとっても不幸な問題です。
- 教員の働き方改革には、教員や保護者から反対の声がある
- しかし、過労死や精神疾患のリスクの高さから、教員の働き方改革は急務である
- 教員の長時間労働は、教員・生徒の双方にとって大きな問題をはらむ
次回は、「教員に働き方改革が必要な3つの理由②リクルーティング編」として、教員採用試験の倍率低下の観点から解説したいと思います。こちらも深刻な問題です。